経口ピルの長期摂取でリスクが高まる血栓症
"男の娘"の女性ホルモン投与による「女性化」「女体化」には、大きなリスクが存在します。その一つが命にも関わる可能性がある「血栓症」のリスクです。
乳房の発達や性欲の低下など、副作用のその多くが「女性的になる」ということから、その結果を求めて女性ホルモンを投与するものですが、「血栓症」だけは絶対に出会いたくない望まざる副作用となります。
一般的にMTFさんが女性ホルモンを摂取する場合には、低用量ピルを純女さんよりも多量に摂取しなければなりません。でないと、男性ホルモンの影響で女性ホルモンの効果が出現しないからです。
この女性ホルモンの血中濃度が高くなればなるほど、血栓症の確率が上がります。純女さんでも、エストロゲンの血中濃度が上がる妊娠中や産後6週間程度は気をつけなければいけないとされています。血栓症は、男性よりも女性に多い病気でもあります。
ピルで血栓症になる仕組み
女性ホルモンを経口投与しますと、消化管から吸収され肝臓に取り込まれます。この時にエストロゲン(特にエチニルエストラジオール)が血液凝固因子の産生を活性化、また抗凝固系に働くプロテインS産生を抑制する働きをするため、血が固まり(血栓)やすくなります。
エコノミークラス症候群のように、長時間同じ姿勢で座っていますと足の静脈内に血栓(静脈血栓)ができ、これが飛んで肺の血管を塞いでしまうと「急性肺血栓塞栓症」という病気になります。これまで健康で病気の予兆が全く無かった人が、いきなり突然死を起こすことから、近年になり注目されています。
女性ホルモン剤の経口投与では、吸収の時と排泄される時の2回、肝臓を通ります。経皮吸収剤の17β-エストラジオール(E2)では、直接血中へ入ることからリスクは低く、感刺激作用が弱いことから凝固系がほとんど変化しません。それでも排泄される時に1回肝臓を通りますし、いずれでも量が多くなればそれだけリスクも増します。
一般の女性では、何も服用していない人に比べ低用量ピルを服用している人は3倍から6倍血栓が増えるといわれており、ピルの服用によって血栓症を起こす割合は、1年間で1万人のうち9人、死亡する人に至っては10万人に1人の割合となっています。亡くなった人の多くが、頭や足にできた血栓が肺に飛んで詰まり、呼吸困難を起こしていることがわかっています。
一般ではそれほど確率が高いわけではありませんが、MTFの女体化では、その服用量が多い点が気になるところなのです。最も血栓を起こしやすいのはピルを飲み始めて1~3ヵ月目までで、それ以降は発症率が減っていきます。
血栓症にも種類があります
血栓症は、「血流」「血液」「血管」に異常が起こることにより血中に血の塊ができ、この塊が血管を詰まらせることによって様々な病気を引き起こします。
- 動脈血栓症
悪玉と呼ばれるLDLコレステロールが血液中には多く存在していると、血流が悪く溜まった状態で酸化が進み、「酸化LDL」が動脈内の血管壁に傷をつけて付着します。こうなりますと「掃除屋」マクロファージ(貪食細胞)が登場し、変性したLDLを際限なく食べ尽くしていきます。すると今度はマクロファージが「泡沫細胞」に変化してしまい、やがて血管壁に居座わり平滑筋細胞などを呼び込み厚くて硬い結合組織を形成することになります。これが動脈自体の弾力性を奪い、傷つきやすくなっていきます。
この血管壁の傷に対して、血小板が修復と止血のために集まり血の塊=血栓ができていきます。この血栓が心臓でできたり他の場所から飛んで来て毛細血管に詰まると「心筋梗塞」、脳へ飛ぶと「脳梗塞」となります。足の動脈が詰まれば、「下肢末梢動脈閉塞症」「閉塞性動脈硬化症」です。 - 静脈血栓症
静脈は足先から心臓・肺に向かって血液が流れますが、動脈に比べても血圧は低く流れが緩やかになります。そこで深部静脈は下肢筋肉が収縮することで血液の流れを増やし、心臓へと血液を戻しています。これが、足は第2の心臓とも言われる所以でもあります。
長時間椅子に座った姿勢を続けますとこの足の筋肉が動かないため血流が滞り、滞留部分に血の塊=血栓が発生します。立ち上がった際など動き出しますと筋肉が収縮、滞留していた血液が一気に押し出されます。そのまま血栓は心臓を通り肺へと到達し、肺の毛細血管を通過できなければそこで詰まり「肺塞栓症」となります。
主に以下の3つの要因が関係しています。
・静脈の内壁の損傷
・血液が凝固しやすい状態
・血流速度の低下
血栓症予防のために
次の方はピルの経口投与はお勧めできないとされています。
- 40歳以上
- BMI25以上の肥満体型
- 喫煙の習慣がある人
- お酒を多く飲む人(血流が悪いため)
- 前兆がある片頭痛(閃輝暗点等)がある人は、脳血管障害が発生しやすい
- 高血圧や脂質異常症などの生活習慣病の方
つまりは、日頃から健康的な生活を心がけることが血栓症の予防にもなるということです。何か他に基礎疾患の病気を患っていなくても、日常生活において血栓症は起こる可能性がある病気です。
仕事や勉強で長時間同じ姿勢でいる場合、いわゆるエコノミークラス症候群になりやすいので、下肢を動かさない時には足首を曲げ伸ばししたり下肢をさすったりマッサージするなどして、30分に1度はふくらはぎの筋肉を収縮させるような運動を心がけることが必要です。
また、水分をこまめに摂取することも大切です。他にも食生活を気をつける、定期的に運動をすることで予防になります。
こんな症状が出たら血栓症を疑います
深部静脈血栓症の初期、約半数は無症状です。突然の片方の足の痛みと腫れ、手足のしびれ、押しつぶされそうな胸の痛み、息苦しさなどの症状が現れた際は、下肢静脈に血栓ができていたり、肺動脈に詰まってしまっている可能性があります。
そのような場合には、すぐにピルの服用を止めて、循環器が診れる内科を受診する必要があります。
また、痛み止めが効かないような激しい頭痛、吐き気、ろれつが回らないといった脳梗塞の症状があれば、脳外科でCT、MRI検査を受ける必要があります。早期に対応できれば命に別状はありません。緊急性の高い場合は、救急対応のできる大きな病院へいくことをお勧めします。
こういったわずかな徴候を見逃してしまうことから、MTFの女性化では勝手に個人輸入薬を飲み始める「フライング」は推奨されず、医師の指示の元でピルは服用しましょうと言われています。